介護ってどうやるの?
今年67歳になる父が脳卒中で入院してから3ヶ月になる。担当医から呼び出された私は、足取り重く病院の廊下を歩いた。脳卒中といえば、後遺症の怖い病気だ。私は仕事が忙しく、父の看病は妻と姉たちに任せっぱなしにしていたが、容態については把握しているつもりだ。担当医の用件も予想がつく。
「在宅介護をお勧めします」
医者には到底見えない体躯の良さのわりに、自信のない声で担当医はいった。父は命に別状がないほど回復したが、後遺症として右上肢麻痺が残り、しばらくはリハビリが必要だという。だったら、このまま入院を続けて理学療法を実践してもらいたいとお願いしたが、父の強い希望もあり、在宅介護をすることになった。
「では、退院は1週間後です。それまでに必要な手続きをしておいてくださいね」
父は農村地帯の戦中生まれには珍しく、高校を卒業し、電気技師として40年以上仕事をしてきた。子どものころは一緒にバッティングセンターにいき、よく父のピンポン玉のように飛ぶ打球に見とれたものだ。その父を介護することになるとは、気が重い。
「ねぇ、あなた、手続きって何をすればいいの?」
家に帰り、妻に担当医からの話を伝えると、彼女はそういった。
…しまった。
「あぁ、えぇっと、あれだ、介護の手続きだよ」
担当医は何か手続きについて説明していたが、父との思い出に思考を巡らせているうちに、話を聞きそびれてしまった。結婚してから5年になる妻は、静かにため息を吐いた。これは、ちょっと、危険な状況になってきた。
「2時間以内に調べてこないと、禁酒ね」
妻はとっても明るい笑顔でいった。「いやぁ、あなたがドジだと、お酒代を節約できて助かるのよ」節約した金は、妻のガラクタ(一応ダイエットの機械らしい)に費やされる運命にある。私は近所の本屋に走った。
「初めての介護」「介護される人の気持ちを知る本」「完全介護マニュアル」(全て仮題)などなど、介護に関する本が山積みにされている。私は適当に一冊とり、「介護の手続き」について調べた。
「介護保険に関する手続き」「居宅介護事業者に関する手続き」「自治体の支援に関する手続き」など、いろいろあるが、どうやら当面手続きをする必要のあるものは「介護保険」だけらしい。